7,000回。この数字が何を指すか、ぴんとくる方はほとんどいないと思います。
それは、山口県下関市・山の田にある「広島お好み焼き 弘々家」の店長・市山隆志が、今のパリパリ麺を完成させるまでに重ねた試行錯誤の回数です。「失敗」と呼ぶには少し語弊があるかもしれません。毎回何かを掴んで、また鉄板に向かっていたのだから。でもその数字の重さは、35年以上鉄板の前に立ち続けてきた職人だけが知っている。
この記事では、そんな市山店長の「ある一日」の流れを追いながら、あのパリパリ麺がどう生まれ、今日もどんな思いで焼かれているのかをお伝えします。
こんな方におすすめ
- ✅ 弘々家のパリパリ麺がなぜあの食感なのか知りたい方
- ✅ 「広島風お好み焼き」を一度も食べたことがない方
- ✅ 食べログ百名店に選ばれた店の裏側が気になる方
- ✅ 下関でランチ・ディナーのお店を探している方
- ✅ 職人のこだわりと人柄を知ってから来店したい方
開店前の静けさの中で——午前の仕込みから始まる一日
市山店長の一日は、開店時間よりもずっと早く始まります。仕込みの時間帯、店内にはまだお客様の姿はなく、鉄板だけが静かに温もりを待っています。
キャベツを刻む。国産豚バラ肉を切り分ける。寒玉キャベツの甘みが今日はどのくらいか、指先と目で確かめる。下関特産の安岡ねぎは、葉の張り具合まで一本ずつ見ていく。毎日同じ作業に見えて、素材の顔は毎日違います。「その日の素材に合わせて、火の入れ方も変えていく」というのが、35年の経験から身に付いた市山流の感覚です。
そして麺。弘々家のパリパリ麺に使うのは、国産小麦100%の生めん。これを鉄板でじっくりきつね色になるまで揚げ焼きにする——その工程こそが、弘々家の一番の個性です。仕込み中でも、市山店長の目はちらちらと鉄板の上の麺に向かっています。今日の麺の水分量は?温度の乗り方は?開店前のこの時間も、試行錯誤は続いています。
7,000回の話——パリパリ麺はこうして生まれた
市山店長がパリパリ麺の着想を得たのは、下関が誇るもう一つの名物「瓦そば」からでした。茶そばを熱した瓦の上で焼く、あの香ばしさ。「あの食感を、広島お好み焼きの麺でできないか」——そこから長い試行錯誤の日々が始まりました。
生めんを鉄板で焼くのは、簡単そうに見えて実は非常に難しい。火が強すぎれば焦げる。弱すぎればベチャッとした仕上がりになる。油の量、麺の広げ方、ひっくり返すタイミング、重ねる前のひと押し——変数は無数にあります。
「7,000回って大げさに聞こえるかもしれないけど、毎日焼いてたらそうなるよ」と市山店長は笑います。でも笑いながら言える今があるのは、笑えなかった夜が何百回もあったからのはずです。ある時期は麺の仕入れ先を変えてみた。ある時期は鉄板の温度帯そのものを見直した。世界のごはんを食べ歩き、美味しい一枚を焼くためのヒントを探す——休日の食べ歩きも、この試行錯誤の一部でした。
そうして完成したのが今の「パリパリ麺」です。外はパリパリ、中はキャベツの蒸し焼きでふんわり——あの食感は、計算と勘と、気の遠くなるような繰り返しの産物です。
✓ ここまでのポイント
- 弘々家のパリパリ麺は、下関名物「瓦そば」からヒントを得た独自技術で生まれた
- 国産小麦100%の生めんを鉄板でじっくりきつね色に揚げ焼きする工程が最大のこだわり
- 7,000回の試行錯誤は今も続いており、毎日の仕込みの中で微調整が重ねられている
ランチタイム(11:30〜)——「今日も一枚一枚」の鉄板仕事
11時30分、暖簾が出ます。最初のお客様が座ると、市山店長の目つきがすっと変わります。笑顔はそのままに、鉄板の前では完全な集中モードへ。
弘々家では、全てのお好み焼きを市山店長が一枚ずつ手焼きで仕上げます。どんなに注文が重なっても、どんなに混んでいても、その原則は変わりません。カウンター席に座ったお客様は、その手元を間近で見ることができます。生地を薄く広げ、山盛りのキャベツを重ね、豚肉をのせ、きつね色に焼いた麺を重ねる。そして絶妙なタイミングでひっくり返す——このひっくり返しの一瞬に、35年分の感覚が宿っています。
ランチタイムは地元の常連さんが多い時間帯。山の田エリアに根を張って32年、顔なじみのお客様との短いやりとりも、この店の大切な時間です。「今日も来てくれたんか」「ばっちこーい!」——そのひと言でカウンターが温かくなる。
「麺がこんなにおいしいなんて!」
40代・男性
「おばあちゃんがすごく喜んでくれました」
40代・女性(家族連れ)
ディナーの夜(17:30〜)——鉄板ライブと居酒屋の夜
夕方の営業が始まると、来客層が少し変わります。仕事帰りの一人客、カップル、グループでの飲み会、遠方からわざわざ来てくれた食べログ百名店目当てのお客様。それぞれの目的は違っても、みんな同じ鉄板の前に集まります。
弘々家の夜の楽しみ方は、「お好み焼きが焼ける間に一品つまみながら飲む」スタイルです。豚キムチ、とん平焼き、そしてだし掛け出汁巻き玉子——注文を受けてから3個の卵を素早く巻き上げ、熱々のカツオ出汁をジュワッとかける瞬間は、カウンター席の特等席から見ると思わず声が出るほど。山梨・神奈川の鉄板焼き職人から伝授された秘伝レシピで作るこのだし巻き玉子は、グランドキュージーヌ金賞を受賞しています。
食べログ百名店に4年連続で選出されるようになってから、SNSや動画を見て来てくれる若いお客様も増えました。「動画で見て、すぐ来ました!」という声は、市山店長にとって素直に嬉しいもの。でも一方で、「地元の方に育てていただいた店だ」という思いは今も変わりません。来てくれる全てのお客様に、同じ一枚を焼く。その姿勢が、32年続いてきた理由だと思っています。
閉店後——次の一枚のために
ラストオーダーを終え、鉄板の火を落とし、片付けが終わっても、市山店長の頭の中はまだ動いています。今日の麺の焼き色はどうだったか。あのお客様が少し残していたのは、麺が硬すぎたからか。次はあそこをこう変えてみよう——。
還暦を過ぎてフルマラソンを10回以上完走し、スノーボードのインストラクター資格を持ち、ツールド下関にも出場する。休日は世界のごはんを食べ歩く。そんな行動力の根っこにあるのは、「もっと良くなれるはずだ」という感覚で、それは鉄板の前でも全く同じです。7,000回の試行錯誤は、終わっていません。今日も明日も、その続きです。
まとめ——パリパリ麺は、今日も鉄板の上にあります
「7,000回」という数字を聞いて、遠い話のように感じた方もいるかもしれません。でも弘々家に来て、カウンター席に座って、目の前でパリパリ麺が焼き上がる瞬間を見れば——あの数字がすっと腑に落ちるはずです。
下関・山の田で32年。食べログお好み焼き百名店4年連続選出。グランドキュージーヌ広島お好み焼き部門金賞。でも市山店長が一番大切にしているのは、「また来るね!」のひと言。その声を聞くために、今日も一枚一枚、丁寧に焼いています。
初めての方は、まず「贅沢6種盛り」を。あのパリパリ麺の食感を、ぜひ鉄板の前で体験してみてください。ランチ(11:30〜15:30)もディナー(17:30〜23:00)も、皆様のお越しをお待ちしております。
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