「お父さん、もうそろそろええんちゃう?」
数年前、娘にそう言われたとき、正直ちょっと笑ってしまいました。テレビや雑誌の取材依頼が来るたびに「いやいや、うちはええよ」と断り続けていた私が、その一言でふと立ち止まったんです。
私、市山隆志。山口県下関市の山の田で広島お好み焼き弘々家をやって32年になります。鉄板の前に立ち始めてからは35年以上。還暦を過ぎた今も、毎日エプロンを締めてここに立っています。
普段はあまり自分のことを話すタイプではないんですが、今日はちょっとだけ裏側を見せようと思います。取材を断り続けた理由も、娘の言葉で考えが変わった理由も、全部ひっくるめて。
こんな方におすすめ
- ✅ 弘々家の店主・市山隆志のことをもっと知りたい方
- ✅ 食べログ百名店のお店がどんな想いで営まれているか気になる方
- ✅ 下関で「人が来るお店」の理由を知りたい方
- ✅ 職人のこだわりや仕事への姿勢に興味がある方
- ✅ 弘々家に初めて来店しようか迷っている方
「うちはええよ」——取材を断り続けた、本当の理由
TYSテレビやKRYから取材依頼をいただいたとき、最初の反応は「ありがたいけど、遠慮します」でした。意地を張っていたわけでも、目立ちたくなかったわけでもない。ただ、シンプルに怖かったんです。
怖い、というのは少し語弊があるかもしれませんね。正確に言うと、「テレビに出たあとのお客様を、ちゃんとさばけるのか」という不安でした。
弘々家のお好み焼きは、私が一枚一枚手焼きで仕上げます。どんなに混んでいても、そこだけは絶対に変えない。でも手焼きである以上、一度にたくさんの数を焼くことはできない。放送後に人が押し寄せて、長時間お待たせして、「思ってたのと違う」と感じて帰っていただくことが一番つらい。
お客様に喜んでいただけないなら、有名になる意味がない。それが正直な気持ちでした。
娘の一言が変えた「届ける」という意識
娘に言われたのは、ちょうど食べログのお好み焼き百名店に選んでいただいた頃でした。
「全国から来てくれる人が増えてるやん。もっと知ってもらったほうが、来たいのに来られてない人が来られるようになるんじゃないの」
子どもに諭されるのは父親として複雑な気持ちもありましたが(笑)、言われてみれば確かにそうだと思いました。私が「守ろう」としていたのはお客様への誠実さだったはずなのに、いつの間にか「見えない壁を作ること」になっていたのかもしれない。
それから少しずつ、取材もSNSも受け入れるようにしました。ヤフーニュースに載ったときは正直びっくりしましたけどね。「下関の山の田のお好み焼き屋がなんでここに」って(笑)。
✓ ここまでのポイント
- 市山さんがメディア取材を断っていたのは、手焼き一枚ずつのスタイルでお客様をきちんと迎えられるかという誠実さからだった
- 娘の言葉をきっかけに、「知ってもらうこと」も誠実さの一形態だと気づいた
- 食べログ百名店選出・メディア掲載後も、手焼きのスタイルは一切変えていない
35年間、鉄板の前で学んだこと
スノーボードのインストラクター資格を持っていたり、フルマラソンを10回以上完走していたり、ツールド下関に出たりしていると言うと、「料理人っぽくないですね」とよく言われます。でも私の中では全部つながっているんです。
体を動かすことで感覚が磨かれる、というか。フルマラソンを走り終えたあとの「何が食べたいか」って、すごくリアルじゃないですか。疲れた体が求めるもの、喜ぶもの。それを知っていることが、料理に生きている気がしています。
休みの日は世界中のごはんを食べ歩きます。先日も気になっていた店に一人で突撃して、「この食感、うちのパリパリ麺に応用できないか」とか考えながら食べてました。職業病ですね(笑)。
弘々家のパリパリ麺は、下関の郷土料理「瓦そば」にヒントを得て、7,000回以上の試行錯誤の末に完成した麺です。生麺を鉄板でじっくりとキツネ色に揚げ焼きして、外はパリパリ、重ねた中はふんわり。この食感を再現しようとした方がいらっしゃいますが、家庭のフライパンではなかなか難しい。鉄板の温度管理と、35年分の感覚がないと出せない食感なんです。
自慢しているわけではなくて、だからこそ「ここに来てもらわないと食べられない」という一皿を作り続けることが、私の仕事だと思っています。
「麺がこんなにおいしいなんて!」
40代・男性
地元・下関に育てていただいた32年間
下関で生まれ育って、この山の田の地で32年。正直、ここまで続けられたのは地元のお客様のおかげ以外の何物でもありません。
「また来るね!」って言って帰ってくれる常連さん、「おばあちゃんを連れてきたかった」って言いながら家族で来てくれる方、学生時代から通ってくれていた子が親になって子どもを連れてきてくれる光景……そういう瞬間に、この仕事をやっていてよかったと毎回思います。
「おばあちゃんがすごく喜んでくれました」
40代・女性(家族連れ)
だし掛け出汁巻き玉子のレシピは、山梨と神奈川の鉄板焼き職人の方から伝えていただいたものです。秘伝と呼んでいいものを受け取ったからには、中途半端にはできない。注文が入るたびに3個の卵を素早く焼き上げて、熱々のカツオ出汁をジュワッとかける。そのパフォーマンスを見てにっこりしてくれるお客様の顔が、私の原動力です。グランドキュージーヌの金賞をいただいたときも、「あ、伝わっているんだ」とうれしかったですね。
安岡ねぎも、下関特産のものを使い続けています。甘みと風味が全然違う。地元の食材を使うことは、地元に恩を返すひとつの形だと思っています。
これからも、一枚一枚。変えないと決めていること
食べログ百名店に4年連続で選んでいただいて、メディアにも出て、遠方からわざわざ来てくださるお客様も増えました。それはほんとうにありがたいことです。
でも、だからといって席数を増やすとか、スタッフに焼きを任せるとか、そういうことは考えていません。一枚一枚、私が焼く。混んでいてもお待たせしても、そこだけは変えない。これが弘々家の全てだから。
還暦を過ぎても鉄板の前に立てること、毎日お客様の「おいしい」をもらえることが、今の私には一番の栄養です。スノーボードもマラソンも続けながら、鉄板の前に立ち続ける。それが市山隆志の生き方です。
娘よ、背中を押してくれてありがとうな。
まとめ:弘々家に来てください、一枚焼きます
長々と自分の話をしてしまいましたが、結局伝えたいのは一つだけです。
弘々家に来てくれれば、私が全力で一枚焼きます。キツネ色に香ばしく焼いた麺を重ねた広島お好み焼きを、ジュワッ!パリッ!の音とともに。熱々のうちに食べてもらって、「また来るね!」と言って帰ってもらえたら、それで十分です。
下関・山の田に来る機会があればぜひ。北九州から関門橋を渡ってくる方も、角島観光のついでに寄ってくださる方も、一人でふらっと来る方も、全員ばっちこーい!
ご予約・お問い合わせはお気軽にどうぞ。来店前に「何を頼めばいいか」「駐車場はどこか」など何でも聞いてください。電話でも、LINEでも。
月曜定休(祝日の場合は翌火曜日)、ランチ11:30〜15:30・ディナー17:30〜23:00。月に数日お休みをいただく場合があります。最新の営業日はインスタグラムとLINEでお知らせしています。
山口県下関市山の田中央町1-13 武嶋ビル。駐車場8台無料完備。お待ちしております。


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